青木 ということで、立体思考で活路を開く、最もミニマルなゲームCUBOID(キューボイド)が出来上がったわけですが。
青木 ここで角田さん。
角田 なに?
青木 せっかくなんで、CUBOIDができた経緯を語っていただこうかなと。
治田 いいですね。いまの時代になぜ、こんなにシンプルなルールのゲームを生みだすことができたのか。聞いてみたい。
角田 そうねー。いいよ、語ろうじゃないの。
4.発売まで11年間の紆余曲折
青木 じゃあ、さっそくなんですけど。どれくらい前から作ってたんですか?
角田 最初は2007年ごろかな。その当時「囲碁」にハマってたんですよ。
治田 囲碁。漫画「ヒカルの碁」の、あれですか。
角田 そうそう、まさに「ヒカルの碁」がきっかけで。当時僕は会社員だったから、休み時間に毎日同僚と、ジュースを賭けて囲碁をやってたのね。
角田 それで囲碁ってなんて面白いんだ!と思うと同時に「悔しい!こういうものを、俺も作りたい!」って思って。
青木 作りたくなるんですか
角田 そう。作りたくなった。でも僕の対抗心はハンパないわけです。 ただ似たようなゲームを作るんじゃなくって、囲碁に並ぶくらい、いや、勝つくらいのものを作りたくなっちゃったの。
それで囲碁の欠点を探したんだけど、まず1つ目は、奥が深いんだけどその反面、難しすぎるんだよね。 なかなか気軽に遊べない。
青木 たしかに僕もやったことないですし、難しそうだからやってみたいとも思わないです。
治田 敷居が高い感じしますね。
角田 でしょ。なので、簡単なんだけど奥が深いゲームが作れないかなと思ったのが1つ。
そして囲碁の2つ目の欠点として、見た目があんまりオシャレじゃないなあと思って。ついでに言えば、将棋もオセロも、僕から見たらオシャレじゃないわけですけど。
治田 なるほど、じゃあ角田さんが思う「オシャレなゲーム」ていうと?
角田 たとえばチェスとかですね。海外のボードゲームは、シンプルでオシャレな、木でできたやつが多いんだけど、ああいうインテリアの飾りになるような感じのものを作れたら、囲碁に勝てるんちゃう?って思って。
青木 囲碁に勝つには、敷居の低さと、オシャレさだと。
角田 そう。とはいえ、そこからどうするかなんだけど、まずは囲碁から学び取れる部分を考えた。それは「1つの形のコマ」と「盤」だけで面白いゲームができるということ。 要素がすごくシンプルだよね。
青木 たしかにすごくシンプルですね。ふむふむ。それから次は何をしたんですか?
角田 次はね、何をしないかを考えた。
治田 何をしないか。 つまり?
角田 囲碁って簡単にいうと「陣取りゲーム」なわけです。戦いもあるんだけど、全体で言うと陣取りゲーム。だから陣取りゲームにだけはしないぞって決めた。
青木 なるほど。まず学び取る部分を決めて、次に何をしないかを決めた。そして次は?
角田 ハンズに行った。
治田 東急ハンズ?何かを買いにいったんですか?
角田 いや、とくに何を買おうと決めてたわけじゃないんだけど、素材見たら何か思い浮かぶかなーって思って。
青木 すごいなそれ。ノープランだったんですね。
角田 そうそう。でね、ハンズいったら、木の立方体が売ってて。「あ、なんかいいなあ立方体」って思って、まずはそれを買って帰った。
家に帰ってから、木の立方体を手の上に転がしながら「何かにならへんかなあ」って、1つずつ机に並べていくわけ。
角田 「並べた面積を数えて、、、あ、陣取りになってるやん、あかんあかん」とか「上に積み重ねて、、、立体陣取りゲーム?あかん、囲碁に毛が生えただけやん」とか、ブツブツ言いながら考えてたわけ。
青木 1人でやってたんですか?
角田 もちろん1人だよ?
角田 それで何も思いつかないから、立方体と立方体を接着剤でくっつけて直方体を作ったのね。そしたら、
「あれ?縦方向、横方向、高さ方向の3つの置き方が生まれたぞ?」
角田 「置き方で距離が変わるのか、、、まてよ?、、、距離、、?」
「2個じゃなく3個接着したらどうなる?」とか、またブツブツと1人で考えていって。
治田 なんかすごい状態ですね。自分との対話みたいな。
角田 そうそう。それで
「距離を、、かせぐ、、あれ?つなぐ? 繋ぐのは どうだ?陣取りじゃなくて繋ぐ、、、繋いでそれから、、どうなる?」って。
青木 そこでひらめいたわけですね!
角田 いや、まだなんだよね。でもなんか知らんけど、正解はそっちな気がする!って漠然と手応えを感じて。
角田 それでそのまま考えてても仕方ないから、またハンズに行って。今度は角材を買って、立方体2個分の大きさのブロックを沢山作ってみたり。
治田 これがその時の試作ですか。
角田 うん。色も試してみたいなあと思って、次にいきなり漆を塗ってしまったんだけど。
青木 漆!試作なのに、まだルールもできてないのに、なんて高級な。
角田 テンション上げたかったんだよね。
角田 その当時はまだ「コマ」だけで、「盤」は無かったんだけどね、これを手で机に並べたり置いたりしながら、またウンウン考える。
「白を置いて、赤を積んでみるじゃろ。。うーん、、置いた駒を動かしてみるじゃろ、、うーん、なんだろうなあ、、」と、とにかく触ってみる。
青木 なんかお爺ちゃんみたいな語り口になってますけど。しかしすごいなそれ。頭で考えるんじゃなくて、手で考えてる感じですね。
角田 もう、今にも何かになりそう。あとはルールだけ、ルールだけやのに、なんやろって、もう何日も考え続けて。
角田 「駒を動かすんじゃなくて、軌跡を残してみるのはどうかな、、軌跡を残しながら距離を稼いで、、、距離が、長いと、、、、 」
「あ!こっち側と向こう側が繋げられる?」
「つまり、相手よりも先に繋いだ方が勝ちとか? 」
「あれれれ?面白くなりそうだぞ?」って 。
青木 なるほど、そこで陣取りではなく、こっち側とあっち側を繋げるという、CUBOIDのルールの基本形ができたわけですね!
角田 そうなんだけど、その時に思ったのは「道が繋がって嬉しいのは誰やねん」ってこと。
治田 嬉しいのは誰って、ゲームのプレイヤーじゃないんですか?
角田 いや、そういうことじゃなくて。たとえば将棋は「将軍と将軍が戦っている。」囲碁は「戦争で陣地を取り合っている」とか、それぞれ設定ってのがあるじゃない?
青木 たしかに。チェスもそうですね。でもオセロは特になさそう
角田 それ!だから僕オセロあんまり乗れへんねん。それで、設定があったほうが面白いと思った。だからこのゲームも「道が繋がって嬉しいのは誰だっけ、道を増やして、競って、嬉しい人、いや、動物は、、、、、うーん、アリさんかな?」って。
治田 なるほど、だからこの「盤」にはアリの絵が描いてあるんですね。
角田 そう。このアリさんが、ブロックの上を歩くじゃろと。それを防ぐじゃろと。ここで、アリさんが歩く道を作ってあげるっていうゲームはどうじゃろ?って事になり、 「できたー!!完成したぞー!」と。
そこから、この試作を使って沢山の人と遊んで見たんだけど、なぜか、今ひとつ盛り上がらない。
青木 盛り上がらない!?なぜだろう。
角田 今思えば「アリさんが歩いていると仮定して道を作る」というのが難しかったみたい。ルールを説明してても「じゃあこの場合はどう?アリさんは歩けるの?え?歩けないの?なんで?」って質問ばっかり出ちゃって、なかなか理解してもらえなくて。
いくつかメーカーに売り込んだりもしたんだけど、結局そんな感じで商品化になることはなく、お蔵入りにしてしまったと。
治田 むむう、なるほどー。それから11年後の2016年夏に、転機が訪れたわけですね。